「ハイブリッド車はATFを交換しなくていいらしい」。車好きの友人にそう言われたけれど、本当に放っておいて大丈夫なのか。走行距離が10万kmを超えたノア80系ハイブリッドのオーナーから、こんな質問が届きました。答えたのは自動車整備の現場をよく知る解説者です。その答えは「交換は必要。ただ、やるべきかどうかは乗り方しだい」というものでした。
ハイブリッドでもATF・CVTFは劣化する
解説者によると、ハイブリッドかどうかは関係ありません。ATFやCVTFを使っている以上、トランスミッションの中身は基本的に同じだからです。これらのフルードは石油製品なので、熱や機械的な負荷で少しずつ劣化していきます。
トランスミッションには遊星歯車などのギアが入っていて、回るたびに鉄粉が出ます。そのためオイルパンの吸い込み口には「ストレーナー」というフィルターが付いています。解説者は「汚れないならフィルターはいらない」と言います。フィルターが付いていること自体が、フルードが汚れる前提で作られている証拠だというわけです。
汚れたまま乗るとどうなるか
- 動力の伝達効率が落ち、燃費が悪くなる
- 変速を制御するソレノイドバルブの動きが悪くなる
- 変速ショックが大きくなる、発進時の反応が急になるなど、動きがぎこちなくなる
ただし、こうした不調がすぐに「走れなくなる故障」につながるわけではない、とも解説者は付け加えています。
交換すべきかの分かれ目は「あと何年乗るか」
解説者がいちばん強調したのはここです。あと1〜2年で乗り換えるつもりなら、無理に交換しなくてもいい。燃費や走りに多少影響が出ても、すぐ動かなくなるわけではないからです。費用がかなりかかるので、そのお金は次の車の購入資金に回したほうが賢いという考えです。
反対に、あと5年、5万〜10万kmと長く乗るつもりなら交換を勧めています。安全に、燃費よく、故障の心配をせずに乗り続けるためです。
10万km無交換の車で「抜き替え」が危ない理由
注意したいのは、一度も交換せずに10万kmを走った車のフルードを、いきなり新しくする場合です。
解説者は、昔の油圧パワステのリザーバータンクを例に出しています。新品のパワステフルードはきれいなワインレッドなどの色をしていますが、長く使うと汚れが細かい塊になってタンクの壁にこびりつきます。ひどくなると、外から見えるはずの「MAX」「MIN」の線も見えなくなります。トランスミッションの中でも、バルブボディや油路に同じように汚れがたまっていくのだそうです。
ここに新しいフルードを入れると、フルード本来の洗浄力で、こびりついていた汚れが一気にはがれます。はがれた汚れが詰まりを起こすと、トランスミッションを丸ごと分解しないと直せない故障になりかねません。分解修理には大きな費用がかかるので、結果的に「壊れておしまい」になることもあるといいます。
抜き替えは「半分ずつ」しか入れ替わらない
下から抜いて、抜いた分だけ新しいフルードを足す方法が「抜き替え」です。この方法では、フルードの半分ほどはトランスミッションの中に残ります。5回ほど繰り返せばかなりきれいになりますが、そのあいだも、はがれた汚れは中を回り続けます。
解説者の目安はこうです。
- 4万kmごとなど定期的に交換してきた車:抜き替えで問題ない
- 10万kmまで一度も交換していない車:圧送交換をするべき
圧送交換は「人工透析」のようなもの
圧送交換でよく使われるのが、整備工場でおなじみの「トルコン太郎」という機械です。解説者は、イメージしやすい例として人工透析を挙げています。
本来は腎臓が血液をろ過し、不純物を尿として出しています。腎臓の働きが落ちた人は、定期的に病院に通い、体の外の機械で血液をろ過してから体に戻します。圧送交換もこれと同じ考え方です。
ポンプで新しいATF・CVTFを送り込みながら古いフルードを抜き、機械の中のフィルターでこしながら循環させます。いったん外に出た汚れが中に戻らないのがポイントです。だからフルードがかなり古くても、圧送交換なら大丈夫だと解説者は言います。
費用はネットやAIの相場をあてにしない
多くの人がやりがちなのが、ネットやAIで「ATF交換の費用」を調べて、その金額を信じてしまうことです。解説者によると、AIの答えはネットにある情報の中で統計的に多いものを示しているだけで、実際の金額は車ごとに大きく違います。
理由は、フルードをどれだけ使うかがトランスミッションの汚れ具合で決まるからです。圧送交換はきれいになるまで循環を続け、きれいになったらそこで止めます。汚れがひどければ量も回数も増え、汚れが少なければ少なくて済みます。
フルード代だけで10万円を超えることも
フルードは20リットル入りのペール缶で使います。解説者は、しっかり洗いたいなら最低1缶、自分なら2缶・40リットルは使いたいとのこと。そのくらい使わないときれいにならないという感覚だそうです。
トヨタの場合、トランスミッションの多くはアイシン製で、フルードもアイシンが作っています。トヨタ純正フルードの中身はアイシン製で、色を変えてトヨタのロゴを付けたもの。価格はそのぶん高くなります。アイシンから20リットルのペール缶を直接買っても5〜6万円ほどかかり、40リットルならフルード代だけで10万円を超えます。ディーラーに頼めば15万〜20万円ほどになる可能性もある、というのが解説者の見立てです。
ストレーナーも一緒に交換を
トルコン太郎で圧送交換をするなら、ストレーナーも同時に替えておくのがおすすめだそうです。
途中でやめることもできる
圧送交換は、実際に始めてみないとどれだけ汚れているかわかりません。たとえば20リットル流してもまだきれいにならず、もう1缶使いたいところで「予算的に厳しい」と言われたら、そこで終えることもできます。
少なくとも、外に出した汚れは戻ってきません。ただ、汚れが残っている以上、不安の種は残ります。車種や乗り方、負荷のかけ方によっては、2〜3回続けて回さないときれいにならないこともあり、ばらつきが大きいのだといいます。だからこそ「これくらいで済む」というネットの情報をうのみにしないでほしい、と解説者は繰り返しています。
「交換しなくても壊れない」は本当か
最後に解説者は、友人の「交換しなくていい」という言葉に、はっきり反論しました。走行12万〜15万kmの車を見てきた中で、フルードを交換しないまま壊れ、最後には動力が伝わらなくなって動かなくなった車をたくさん見てきたそうです。
交換しなくても壊れないと言う人は、たまたま自分の車が壊れなかっただけではないか。
まとめると、あと1〜2年で手放すなら交換にお金をかけなくてもいい。長く乗るなら、10万km無交換の車は抜き替えではなく圧送交換で、きれいになるまでしっかり洗う。費用はネットの相場ではなく、自分の車の汚れ具合で決まると考えておく。これが解説者の結論です。
参考動画
- ATF / CVTF の圧送交換が高い理由。交換する必要が”有る人”と”無い人”(GoodSpeedVision)